●万引に対する罪の意識が低いのは何故?
万引きは軽微な犯罪として受け留められる傾向があります。「平成17年 万引に関する青少年意識調査結果」によると4人に2人以上が万引は大したことではないと考えています。しかし、30代の女性がある書店でコミック本を万引した際に書店側が裁判に持ち込んだそうですが、判決は懲役1年執行猶予3年、罰金7万円という相当重い結果となりました。
万引に対する罪の意識が低い理由として、6つの問題点が上げられています。
1.少年が万引きした場合は表面化しないことが多い。
2.各店舗により通報の仕方にばらつきある。
3.学校・警察・保護者・販売店で情報が共有化されていない。
そのため、対応の意思統一が見られません。
4.万引しやすい展示方法を導入している店舗がある。
ディスカウントストア、ドラックストア、モール、大型量販店、商店街など店舗形態が様々であり、万引しやすい展示方法を導入している店舗もあります。
5.万引に対する教育が不十分である。
10人に4人が万引についてきちんと教えてもらっていないといったアンケート結果から、万引に対する教育が不十分な様子が伺えます。
6. 万引したものを買い取る業者の存在がある。
実態は不明ですが、換金目的のための万引が相当数あり、買取り業者の存在が見え隠れしています。
●万引防止評議会の取組み
東京都では子供の健全な育成を図っていくために、平成16年12月に万引防止評議会を設立し、協議会の開催やシンポジウムを行ってきました。これまでの評議会では上記の6つの問題点を踏まえた上で、
・ 万引に対する教育を充実させる
・ 万引を社会全体の問題として取り組んでいく
・ 万引に対する刑法を設けるよう提案する
・ 子ども達の再犯防止ため大人が足並みを揃えて対応する
・ 買取業者に対する条例を設けるよう提案する
・ 販売者側の足並みを揃えて未然に万引を防止する
といった対策が進められています。急増する青少年の万引の再犯を防止するためには、万引に対する教育を受けたか、受けなかったかということで相当意識が変わってくるということなので、大人が足並みを揃えて、責任を持って万引防止教育に取組んでいくことが大切だと思いました。
●具体的な活動事例
万引防止対策に取組む都道府県として宮城県と広島県の活動が紹介されました。
宮城県では平成11年に万引防止協議会が設立されました。設立の前年、前々年に大型ショッピングセンター、大型ディスカウントセンターが登場したことにより、刑法犯に当たる万引件数が4061人と急増。そのうちの65%に当たる2635人が青少年だったという実態を受けて県警から商店街、小売店業に対して万引協議会設立の相談があったそうです。万引をどうにかしたいという主旨の元に県警と商店街、お店が一丸となって活動を開始しました。「万引フォーラム」の開催、「万引防止モデル基準」の策定、「万引防止ソング」の普及などの成果により、万引件数が年々減少しています。
一方、広島県では県警によって「広島県子どもの犯罪被害防止対策プロジェクトチーム」が設立されており、万引防止のための活動が昨年4月から本格的に開始されています。広島県は少年犯罪が全国ワースト16位であり、次代を担う青少年の育成に力を入れています。万引の場合は余罪がたくさんあり、子どもに話を聞いていると「早く家に帰せ」「親に言うな」という感じで全く反省の色が見られないそうです。親も子どもの不利益にばかり目を向けて万引という子どもの行為を棚上げする始末。子どもも親も万引が犯罪だという意識をほとんど持ち合わせていないそうです。県警では「プロジェクトチーム」という名称で万引防止対策を進め、マスコミへの露出機会を増やすという仕掛けを行いました。これは県民の意識改革行うことで万引という犯罪を減らして行こうとする取組みだそうです。その反響として地域活動が活性化、地元企業が協力、万引をさせない店舗作りを進めるお店側の協力が得られ、数字的な成功を収めています。万引防止対策は、官民合同による社会全体の取組みが必要だということを証明した形として、広島県の取組は非常に興味深いものだと言えます。
●まとめ
万引が急増する背景には「万引犯罪は大したことがない」といった社会の認識が甘いためだと東京都万引防止委員、日本EAS機器協議会総務委員長福井氏は指摘します。各地で万引協議会が設立されているものの、低予算の中での活動であり、その対策が地方に任せられる傾向が強いそうです。大きな犯罪は中央で、軽微な犯罪は地方で対処していけばいいといった構図が社会全体にあることにも問題があります。地方でもいくつも協議会が設立されているが重複する部分が多く、全国レベルでの情報の統一が図られていません。万引を減らすためには国として取組む姿勢が大切だと言います。
万引を抑止し減少させるために実際に店舗で活動している保安士さんによると、万引きは低年齢が進む一方で70〜80歳の高齢者まで及んでいるということでした。万引は地元だけで行うわけではなく、他県や他地域まで来て行うケースも多く、この店は保安士がいるから万引がやりにくい、この店舗は店員が見ていないから万引がしやすいといった情報のやり取りが学校を超えて見られるということでした。
昔は万引をした子供もその親も非常に反省の色が見られ「申し訳ございませんでした」というお詫びの言葉がまず出たそうです。万引者を検挙しても警察を呼ぶことはほとんどなかったそうですが、現在は万引をする青少年には余罪が多く、その店舗で万引きしたもの以外にも、他店で万引した商品を持っていたり、刃物や薬物隠し持っているケースも多いそうなので、100%警察に通報しているということです。親も「うち子だけがやっているわけではない」と開き直る様子が見受けられるということで、万引=窃盗という意識が薄いということでした。青少年に善悪の区別をはっきりとつけさせること、保護者には家庭でのしっかりとした躾、学校においては道徳教育をきちんと行い、警察に対しては対応のばらつきをなくすこと、小売店においては従業員の教育の徹底、店長には情報交換を常に行い保安士とのコミュニケーションに努めることが万引犯罪を減らすために必要だと保安士さんは考えています。
万引は犯罪の入口であり、放置しておけば日本社会全体に影響を及ぼすことになります。万引犯罪の撲滅は小売業、商店街、地域社会、保護者、国全体で対峙すべき大きな問題です。その一方で「万引は風邪みたいなものなので早く治療をすれば治る」ものであります。社会が子どもに対して万引に対する犯罪意識をきちんと持たせる教育を行い、万引しにくい店舗作りを店舗側が行い、全国レベルでの情報の共有化が図れることが求められています。全国が一丸となって大きな力で社会にアピールしていくことや、万引犯罪防止対策に関する士新、マニュアル・テキスト等を作成し、普及啓蒙に努めていくこと、各地、各業界の良い取組を、工夫、対策を他の地域、業界にまで行き渡らせ、国レベルでの万引犯罪防止対策を一元的に行い、ローカル協議会での重複を排除していくことを設立趣旨とした、NPO法人「全国万引犯罪防止機構」(平成17年10月設立予定)の役割に期待するところが大きいと思います。
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