◆はじめに 私たち家族は、昨年8月末に兵庫県伊丹市から北海道札幌市に引っ越してきた。澄んだ空気、おいしい水、おおらかな人達。豊かな自然と、よそ者をも快く受け入れてしまう人間性、しかも計画的に都市化された中心部、高いサービスを提供してくれる施設・病院等子育てにはとても恵まれた環境だと感じていた。ところが、ところが!!雪の季節になると、あたりは急変する。
今シーズンは、約10年間続いた暖冬が終わり、積雪量も尋常ではない! 札幌近郊で生まれ育ったお母さん方も「こんなに雪が積もったのは、初めて。」とびっくるするほど市内は雪に埋もれてしまった。初雪が降った11月の始め頃「雪だ!雪だ!」と大はしゃぎしていた子どもたちも、いつの間にか「今日も雪か。」とため息をつく始末。慣れない雪の生活は、大人にもつらいものだが、注意力が散漫な子どもたちには、危険そのもである。実際に経験した実例を、いくつか紹介し、その改善策をいくつか考えて行きたいと思う。
◆1・滑りやすい横断歩道
毎年雪の積もる北海道は、まめに除雪車(写真1)が入り、車用道路では、雪があまり障害にならない。車を利用する者にとっては、たいへんありがたいことである。 しかし、歩行者には冬の横断歩道は危険だらけだ。昼間少し気温が上がると、車が頻繁に通った道路は、ツルツルになってかなり滑りやすい。ちょっとでも気を許そうものなら、ステーン!小学生の娘は、学校の行き帰りに4〜5回道路で転んでいる。3歳の息子も横断歩道を走って渡ろうとして、交差点の真ん中で転んだこともある。いくら注意しても、じっとしていない子どもたちにとって、交通量の多い雪の横断歩道を渡るのは、いつ交通事故が起こってもおかしくない状態だ。 だいたい雪が積もると、横断歩道の場所が非常にわかりにくい。アスファルトの上に薄く積もる雪で、横断歩道の白の縞模様が消えてしまうのだ(写真2)。しかも交差点では、車道と歩道の境界が雪で埋もれてしまう。子どもやお年寄りの方などは、車道のごく近くで信号待ちをしようものなら、スリップして歩道に突っ込んできた車を避けきれないのではないだろうか? 実際、娘にはとにかく車道の近くで信号待ちをしないように注意している。
ひどい所では押しボタン式信号の押しボタンの位置が、隠れそうになっているところもある。また、かろうじて押しボタンが見えていても、除雪の雪が積もり、低学年では、押しボタンを押すことが難しい通学路もあり、親としてはとても心配だ。しかも雪が降ると、今まで徒歩で用事を済ませていた人さえ車に乗ろうとする。その結果にわか迷ドライバーが街に溢れ出す。それでなくても危ない冬の道。子連れで出かける時は、実にハラハラドキドキの連続なのであった。
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写真1:除雪車 |
写真2:消えた横断歩道 |
◆2・急に狭くなる歩行者専用道路
夏の終わりに札幌に住み始めた時、何よりも嬉しかったのは、歩行者専用道路が広いことだった。それまで住んでいた所は、駅からかなり離れた田園の残る街だったのに、残念ながら歩行者用道路にはあまりスペースを取っていなかった。国道や県道のように、車には2車線・3車線ある道路でも、歩道になるとやっとすれ違える程度、というのがほとんどだった。中には、車道との段差もなく、申し訳程度に白線を端の方に引いて済ませている道もあり、小さな子どもを連れて交通量の多い道を歩いたり、自転車に乗って通るのは、ちょっと勇気がいった。
だから、3人で手をつないで歩いてもまだ余りある歩道に、私たちは大喜び。しかも一定間隔ごとに歩道と車道の間にミニ花壇があって、遅咲きのひまわりや、秋らしいコスモスが咲いていたり…。「やっぱり北海道は、道にもゆとりがあるんだな〜。」と感動していたものだ。
がしかし、これも雪が積もるまでの話。前述のように雪が降るとまめに道路には除雪車が入り、車道の雪を左右に除いてくれる。その結果、車道と歩道の間には「雪の壁」(写真4)がどんどんできていく。歩道には、ほとんど除雪は入らない。歩く人達が、通る度に足元の雪を踏みしめ、固めることによって、だんだんその場所に歩けるような細い道ができていくだけなのだ、まるで「けもの道」のように。秋、自転車で走り回った広い広い歩道は、3ヵ月もすると子ども一人が歩くのもやっと!の狭い狭い歩道へと早変わりしてしまった。しかも左右には、降り積もり、除雪された「穴をあければ即かまくら」に変身してしまいそうな、巨大な「雪の壁」がそびえ立っている。少し遠くまで子連れで歩いて行かなければならない時、しっかりと手をつないで、細い細い歩道を歩かなければならない。これまた頭が痛い問題である。
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写真3:埋もれそうな押しボタン |
写真4:歩道にできた「雪の壁」 |
◆改善策1・普及するロードヒーティング 家の玄関や、店先の道路・駐車場を積雪から防ぐ最も良い方法は、やはりロードヒーティング(写真5)であろう。これは、その名の通り、道路の中にヒーターなどを埋め込み、雪を溶かしてしまうシステムである。かなり高価で工事を必要とするため全ての道路というわけにはいかない。けれども、交通事故を考えれば、人通りの多い交差点や小学校のスクールゾーンなどには積極的に取り入れて欲しいものである。
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写真5:ロード・ヒーティングされた店先 |
写真6:交通弱者用押しボタン |
◆改善策2・交通弱者用押しボタン
普通の押しボタンの横に「交通弱者用押しボタン」(写真6)というのを見つけた。この押しボタンを押すと、普通の押しボタンよりも、青信号の時間が長くなるらしい。
これは、子どもやお年寄りにとってありがたいものだ。だが、その押しボタン自体が雪に埋もれてしまっては、どうしようもない。せめて押しボタンの周りだけでも早急にロードヒーティングなどの対策を考えて欲しい。
◆おわりに
札幌へ引っ越して、早5ヵ月。今回のレポートでは、今一番頭を悩ませている「子どもと雪と道路」にテーマを絞って書いた。北海道に生まれ育った人には毎年のことで平気なのかもしれないが、私たち関西の人間にとって、1年の約3分の1もの期間、雪と過ごす北の暮らしは、まさに驚きであり、闘いだ。
北海道は車優先社会だと思う。女性も平気で4WDを乗りこなしている。私も車を運転するし、子どもが小さいと特に車なしでは不便である。しかし、あまりにも車に快適な環境を整えるために、子どもやお年寄り、身体障害者といった、いわゆる弱者を切り捨てた街づくりになっていないだろうか。今回、娘の小学校校区を歩いて感じたこと、考えたことをこれからももう少し詳しく調べて、機会があれば、行政や小学校等に提案していきたい。
ページ数の関係で、改善策は現在行われつつあるものを紹介するだけで終わってしまった。私個人の感想としては、この厳しい冬の生活を札幌の人はいろいろ工夫しているなーさすが180万都市は違うなーと感心している。例えば、歩かないような小さな子は、プラスチック製のソリに乗せて買い物に連れて行く親も多い。帰りには、子どもの他に買った荷物もソリに乗せてしまうのだ。小学校低学年の子どもたちは、通学にスキーウェアを着用している。これだと雪の中に入っても大丈夫。靴はもちろん長靴で、種類も豊富だ。私も個人レベルで改善できることは、もっと工夫して雪と共存していきたいと考えている。
札幌は転勤族の街でもある。東京や大阪方面からやってきた、いわゆる「転勤族の妻」である友人たちは、地元の人達にはわかってもらえない大小の悩みを抱えながら子育てに励んでいる。日本全国の都市部で抱えている問題、地域社会との関わりの薄さは、札幌でも大きな課題だ。子どもというのは、親だけが育てるものではない。理想かもしれないが、地域社会が手をつないで共に子育てしていく環境がなければ、ますます子どもの身の回りは危険だらけになるだろう。
今回取り挙げた交通事情以外にも、中学生同士がナイフで刺しあったり、変質者が出没したり…といった危ない事件が、家のすぐそばで毎月のように起こっている。子どもたちをもっともっと自然の中で思いっきり自由に遊ばせてあげたい(私たちが子供だった頃のように)のに、数々の事件を聞くと、怖くなって、つい親の目の届く場所に制約してしまう。このことは、子どもたちにとっても親にとってもストレスの原因になり、新たな事件を起こしかねない。
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