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チャイルドシートの普及(小野塚佳恵)


 お母さんの胸に抱かれて幸せそうな赤ちゃん。それが、突然の急ブレーキの音と共に腕の中から消え、頬に涙がつたう…。このある意味でショッキングなCMはご覧になった方も多いことだろう。チャイルドシート推進のためのCMである。2000年春からは道路交通法の改正により、6歳未満の乳幼児については着用が義務付けられることにもなり、子どもがいる家庭ではより一層身近な問題となった。
 現代の車社会においては、この問題に全く関わりがないという人は少ないだろう。普段は車を利用することはなくても、週末の買い物やドライブには乗る、という子どもは多いだろうし、地方の公共交通機関の整備が進んでいない地域においては、車は自転車に替わる「生活の足」である。

 そこで、あなたのお子さんは車に乗る時、どうしているだろうか? 現在我が家は前述したような、車が「生活の足」となる地域に在住し、私自身2歳の娘を乗せて毎日のように車を運転している。幸いにも娘はチャイルドシートを嫌がることはなく、おとなしく乗っているが、休日に主人の車に乗って遠出するときになるとシートには乗らず、長女(1年生)と一緒に4WDの後部(本来荷物を載せるスペース)で2人で遊んでいることさえある。
 調査によると、チャイルドシートの着用率は15.1%(6歳未満)と前年より上昇してはいるが、まだ6.6人に一人の着用率であり、「普及している」とはとても言えない数字が報告されている。(1999年、
JAF調べ)
 なぜ、危険だということがわかっているのにもかかわらず、このような結果になっているのか。原因とそこに潜む危険を考えてみたい。

◆原因1.ちょっとそこまでだから。めったに乗らないから。

 「日曜日しか乗らないから」「近所のスーパーに買い物に行くだけだから」など、車に乗っている時間が少ないからという理由であるが、言うまでもなく、事故はいつ、どこで起こるかわからない。どんなに慎重に運転していたとしても、事故は向こうからやってくる。
 例えば時速40km、一応制限速度であっても、実際にこのスピードで走っていれば、他の車にばんばん追い越されることは必至であろう速度である。しかし、そんな速度でさえ正面衝突事故においては、体重10kg前後の子供の場合、200〜300kgの力で引っぱられることになり、どう考えても抱っこで支えきれる力ではない。((社)日本損害保険協会の実験結果より)

◆原因2.子供が泣くから。

 「泣いたって子どもが死ぬわけじゃないでしょ?」と言われたら返答できないが、前出の着用率調査でも着用しない理由に挙げられている。これによってせっかくのチャイルドシートの宝の持ち腐れになっている人はかなり多い。実はわが家でも、甥が使わなくなった物を、長女が1歳の頃に座らせてみたところ、車のガラスが割れんばかりの大声で泣き叫び、使用をあきらめた。実際、普段運転していて子どもを乗せた車を見ると、シートはとりつけてあるのにそこに乗っているのは荷物。子どもは?というと一人で普通の座席に座っていたり、あろうことかだっこやおんぶをしたまま運転している人も見受けられ、見ているこちらがどきっとさせられることもしばしばだ。
 子どもが泣いているのを放っておくのは、理屈抜きにして親としてはつらいものがある。そこでつい「まあ、いいか。」となってしまうのではないか。また、親は泣いてもいいから使いたいと思っていても、おじいちゃんおばあちゃんが「泣かせてまで縛りつけるなんてひどい!」というパターンも多いと聞き、これまた一筋縄ではいかない問題ではある。

◆原因3.値段が高いから。

 「子どもの安全に欠かせないもの」と言われても、現在のチャイルドシートの値段は決して安いものとは言えず、購入を躊躇している人もかなり多い。実際我が家も例の「地域振興券」が出てやっと購入したというのが本当のところである。公園などで話題に出る時も「だって高くな〜い?」という声が必ず聞かれる。
 埼玉県内の大型スーパーで値段を見たところ、最もたくさん売られている物が3〜5万円台で、CMを見て「へ〜、チャイルドシートって安全なんだ、じゃ買ってこようか。」といって簡単に買える値段かというと、普通の主婦の感覚としては、とうていうなずくことはできない。また「(産院を)退院する時から使える」というのがうたい文句の新製品は定価がなんと12万円! 新生児から当り前のようにして使うのが理想とはいえ、この値段設定には絶句してしまった。

 以上が「チャイルドシートが普及しない」考えられる理由の主なものであるが、主要先進国はすでに罰金を伴う法制化がなされており、日本でも法改正の施行まで1年をきった。どうすればこれらの原因が解決されるか考察を進めたい。

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●対策1.徹底した安全教育

 これは原因1と2についての対策である。具体的にはまず免許取得時(自動車教習所)において、教習内容に組み込むのが現実的ではないだろうか。現状ではせいぜい免許証更新時の講習でパンフレットを配るくらいで、1歳だった次女をおぶって更新時講習を受けていた私に気がついた講習員の方が、もののついでのように「チャイルドシート、使いましょうねぇ」という程度である。おそらく次女が目に入らなかったら口にしなかったのではないか。教習所で必修科目にし、衝突実験ビデオを見て、事故の恐ろしさを頭に入れた上で、実技にもチャイルドシートのセットの仕方、子どもの乗せ方を組み込むのが一案であろう。
 また、車を運転する人だけでなく、これから出産する人が集まる母親学級や地域の子育てサークルで、交通安全協会や自治体がPRしていくというのも、すぐそばに守るべき子どもがいるという点で、かなり効果的ではないかと思われる。小学校や幼稚園ではしばしば「交通安全教室」が行われている現状を考えれば、あまり難しいことではないだろう。

●対策2.チャイルドシートの入手を容易にする

 これは原因3についての対策である。前述した通り、チャイルドシートはごく普通のサラリーマン家庭にとって、決して安くはない。日本での法制化が新聞に載るようになってからは、投書欄などでもこの点が指摘されている。具体的対策としては2つ考えられる。

(1)自治体による補助金

 例えば3万円のチャイルドシートを購入するとして、そのうち2万円を補助してもらえば、家計にかかる負担は激減し、購入数は激増すると考えられる。法制化が実現してから3年程度、全国の自治体で補助制度を実行すれば、「規模の経済」が働き、必ずチャイルドシートの値段も下がり、補助金がなくても買える程度の値段(1万円程度)になると考えられる。

(2)リサイクルシステムの確立

 一例としては地域の公民館単位で必要なくなったチャイルドシートを回収し、希望者に使ってもらうというシステムである。また、自治体が無料または安価に長期リースするというのも一案である。現在でも警察署(交通安全協会)でリースしているところがあるが、期間が2週間ほどであり、とても現実的なものとは言えない。

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 以上、チャイルドシートの利用をテーマに「子どもの身の回りの危険状況」を考察してみた。現在シートを利用しないで子どもを車に乗せている人も、頭の中ではその危険性はよくわかっているはずだ。上記に挙げた原因も、大切な子どもの命に比べれば、本当は取るに足らないものだということも、きっとわかっている。ということは、子どもを危険にさらしている本当の原因は「親の危機感の薄さ」ではないか? それはイコール「子どもに対する愛情」といっても過言ではないだろう。基本的に「自分の子どもは自分で守る」という意識を私たち親がしっかりと持ち、どのような危険が子どもたちを取り巻いているか、見極めなければならないと、改めて実感した。