●大人と子どもの規範意識 (北海道新聞生活部 中村康利)
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中村さん担当の記事はこちら! *…北海道新聞 朝刊…* 2004/4/13 危険避ける力身につけさせて *…北海道新聞 …* 2004/5/11 -ベビーカー- 転落防止には5点支持式 手や指の挟みこみに注意 |
ゴールデンウイークに入り、ここ札幌でも桜が花を咲かせはじめました。天気の良 い休日は、大通公園や円山動物園など子どもの人気スポットに大勢の家族連れがやってきます。 北海道の大半の街は冬になると雪で覆われ路面が凍るため、車はスピードを出せず、交通死亡事故は少なくなります。それが春になると車はどんどんスピードを出します。 街中の公園は冬期間、付近の住宅に積もった雪を捨てる「排雪場」になるため、そこで遊ぶ子どもは少なくなります。暖かくなり雪が解けて地面が乾くと、大勢の子どもが遊具や砂場で遊ぶようになります。 そうなると交通事故や子どもへのいたずらも増えはじめます。 北海道内の自治体や学校でも、交通安全教室に加え、防犯ベルの携帯や、危険場所を地図に落とす「危険箇所マップ」作りが盛んに行われています。 こうした取り組みを私は何回か新聞記事にしました。最近はちょっと別の観点から 気になるリポートを読んで記事にしました。「ベネッセ未来教育センター」(東京) のまとめた「モノグラフ・中学生の世界 規範意識の緩みと喪失」と、「くもん子ど も研究所」(大阪)の「からざレポート 子どもの生活のようす」です。 ベネッセのレポートによると、昨年5−6月、東京、埼玉、神奈川の公立中4校約 1600人を調べたところ、「クラスのいじめを見ないふりをする」と答えた子ども が55%、道路で1000円を拾ったら「もらってしまう」子どもが64%もいました。グレーゾーンの行為を黙認、あるいは容認する回答が目立ち、子どもの規範意識が緩んでいると指摘しています。 からざレポートの調査は、全国の小学4年−高校3年生とその保護者約770組を対象に昨年10−11月に実施したものです。「家の手伝いをすすんでする」「外で落ちているごみをごみ箱に捨てる」と答えた子どもはともに1割に満たず、「靴を脱いだらきちんと並べる」は約2割。子どもと保護者の回答率が似た傾向だったことから、子どもの規範意識は、親など大人の考えが影響している部分が大きいようだとしていました。 最近の子どもへの性犯罪の増加などを考えると、加害者である大人世代の規範意識の問題、他者へのいたわりや欲望を抑える理性の欠如を感じざるをえません。規範意識の低下が今の子どもたちに悪影響を与えているとしたら、このままでは子どもたちが大人になるころも規範意識は改善されず、犯罪も減らないかもしれないと悪予感 が頭をよぎります。 世の中全体として一人ひとりの内面の規律が小さな子どもの生命を脅かすほどひどいならば、犯罪に対する厳罰という、外からの規制が強まることになるでしょう。これは健全な社会でないと思います。 話を北海道に戻します。ここ北海道には、先住民族のアイヌの人たちが大勢暮らしています。私も何人かの知人がいます。彼らはかつて狩猟や採取を中心とした生活を送っていましたが、今は私たちと全く同じ生活様式です。 アイヌ民族の親は子どもに「アイヌ ネノアン アイヌ」(人間らしい人間)にな れと何度も繰り返し教えたそうです。アイヌの人たちは、さまざまな神々が見守る 中、厳しい自然の下で人間、動物、火、雷、樹木、昆虫などが支えあってこの世が保たれていると考えていました。だからこそ有用であるものも無用であるものも大切に し、温厚篤実な人になることを目標に、困難や試練に直面してもそれを乗り越えるよ う、励んできました。 先住民族の知恵を都合よく借りたところで現代社会の問題が簡単に解決するとは思いません。ただ、そこに込められた精神文化を知ると、「お天道様に顔向けできないことをしてはいけない」とかつて私たちの先祖が伝えた考えと似た部分があることに気づかされます。 いろいろな文化を学んで価値観を相対化して、バランスのとれた人格を形作ることを目指すのはとても意味あることだと思います。 大人たちが自分を十分律することなく、子どもたちに規範をきちんと伝えられないままでよいはずがありません。特に気になるのが、競争に勝ち抜くことを奨励し、そうでない者を「負け組」として切り捨てる風潮があまりに行き過ぎていることです。 先住民族の優れた精神文化を学ぶことができる一方で、失業率の高さから言えば「負け組」になってしまう北海道で暮らしているからこそ、余計そう思います。 自己紹介 1989年、北海道新聞社に入社。現在、本社生活部で子育て欄担当。著書は、北海道に先住するアイヌ民族がダム建設で土地を強制収用された問題を追った「二風谷ダムを問う」(自由学校「遊」刊)。現在、アイヌ民族の四季折々の暮らしを毎月一回、紹介する連載「コタン彩時記」を執筆中。北海道新聞社のホームページでも見ることができます。 |