新聞紙上で自転車問題を連載するきっかけになったのは、横矢さんとの雑談でした。以前から取材のおりおりに、さまざまなヒントをいただいていましたが、今回は、私のアタマの中にあった漠とした「子どもをとりまく危険」という関心事に、横矢さんのアドバイスがすっぽりとはまり、目から鱗が落ちるような思いでした。
取材の過程で、いろいろなことを考えさせられました。自転車のルールそのものがあまりにも知られていなこと、ルール自体が実態にそぐわない点が多々あること、製品の安全性に問題がある自転車がかなり売られていること、歩道上での事故が増えていること、子どもが「加害者」になるというケースが増えていること、事故を救済するはずの保険制度が十分とはいえないこと等々・・・・。まさに、課題山積という状況でした。 まだとても深く突っ込んだとはいえない状態にもかかわらず、連載には連日、数十本の手紙やメールが寄せられました。横矢さんの「こだわり」が、時宜に適していたことが、改めて実証された形でした。 実は、私自身は、熱烈なサイクリストです。 ロードレーサーで走るときは、もちろん車道です。当時、自転車で車道をしょっちゅう走ってみて痛感したのは、日本の車道の走りにくさでした。路肩の、なんとガタガタで、ゴミか散乱し、違法駐車が多いことか。そして、幅寄せしてくる意地悪な車の、なんと多くて危険なことか・・・。「自転車は車道」、確かにそれがルールでしょう。が、日本の車道は、このままの状態で子どもたちに走れと言うには、あまりにもお粗末で危険な場所が多いと思います。 その後、子ども2人を立て続けにさずかってからは、今度は「ルール違反」の日々でした。保育園に幼児2人を送迎するのに、「電動アシスト付き自転車」を活用したのですが、前後の補助椅子に幼児2人を乗せ、ハンドルを握る両手にシーツや着替えの入った大きな布袋を2つぶらさげ、さらに自分の仕事の荷物を背負い、坂道を朝夕上り下りーー。「幼児2人乗せ」も、「荷物を大量にもっての運転」も、すべて立派な道交法違反ですが、そうとわかっていても、やめられませんでした。 子どもを補助椅子に乗せたまま、停車中に倒してしまい、アタマを打った息子を抱えてタクシーで大学病院に直行したこともあります。幼児を同乗しての典型的な自転車事故です。CTスキャンの結果は、幸い異常なしでしたが、いま一連の記事を書いていても、あの時の、総毛立つような不安と後悔とを、まざまざと思い出します。 今回、取材していてあらためて感じたのは、自転車のルールをきちんと身につける「場」が、いまの社会にはほとんどないことです。車の免許を取った人は、かろうじて教習所で学びますが、それも、自動車にとっては「危険な存在」としてアタマに入るだけ。全く車を運転しない人にとっては、ルールを知らなくても無理はないと思います。 自転車は、さまざまな危険性が指摘される反面、楽しくて、健康にもよく、排気ガスも出さない、たいへんすばらしい乗り物です。うまく活用している国は、欧米に、いくつもあります。道交法の改正や自転車道路の整備などといった国の動きとあわせ、ここは、横矢さんとタグを組んで、自転車問題に引き続き、声をあげていかなくては、と思っています。
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朝日新聞生活面 自転車の安全B 2007.6.20
朝日新聞生活面 自転車の安全C 2007.6.21
朝日新聞生活面 自転車の安全D 2007.6.22
朝日新聞生活面 自転車の安全E 2007.6.23 |