子どもの発熱


 子どもの発熱と熱性けいれん体験レポート(西江麻由美)

初めての熱性けいれん!

 私の娘は只今1歳10ヶ月です。今年に入るまでこれといって大きな病気もせず、真冬もスイミングに通いながら風邪もひかない元気な子どもでした。周りのおともだちはやれ風邪をひいた、熱を出した、ひきつけを起こしたと大騒ぎでしたが、うちの娘は丈夫だから心配ないわとタカをくくっていたほどでした。とくに熱性けいれん(ひきつけ)などとは無縁も無縁と信じて疑っていませんでした。
 ところがです!今年2月11日、事件は起きてしまいました。私たち家族は休日に車でよくショッピングにでかけます。その日もいつもどおり、ドライブしながらいろんなお店を廻っていました。娘も元気にお店の中を走りまわっていたので、とくに何も心配していなかったのですが、なんだかいつもよりホッぺが赤いかなとは思ってました。
 何件かお店をまわったところで夕方になり、さあそろそろ家路につこうかというとき、たまたま私が運転をしていたため、まずお父さんが娘の異変に気づきました。「お母さん!サナリがなんかおかしい!!」あわてて車を路肩に止めて娘をみると、今まで見たこともない娘の姿が!全身を激しくけいれんさせ、口からはだらだらと唾液を垂らし、目は白目をむいていたのです!「これがひきつけってやつだわ!」ととっさに思いましたが、さてどうしたらよいかというのがまったく頭に思い浮かばず、ただただおどおどするばかり…。お父さんが「舌を噛んじゃいそうだよ!」と言いながらあわてて自分の指を娘の口に押し込みましたが、たしかそれはやっちゃいけないことだ!と育児書の注意書きを思い出した私は「お父さん、大丈夫!舌は噛まないから指は出して!呼吸ができなくなっちゃう!」と叫びました。そうこうしているうちにけいれんはおさまり、黒目に戻りました。しかし、まだ娘はぐったりとしたままです。とにかくチャイルドシートから降ろし、後部座席に寝かし急いで近くの救急病院に運び込みました。
 しかし救急の待合室はとても混雑しており、受付に先ほどの娘の状況を説明したところ「今はもうひきつけはおさまったんでしょ?休日で混んでるし、たぶん今日診てもらわなくても大丈夫ですよ。」と言われました。でも何しろ初めてのことで、とても心配だったので、待ってでも診てもらうことにしました。
 しばらくして、診察の順番がまわってきました。ひきつけを起こすくらいですから40℃くらいはあるのではないかとビクビクしていたのに、熱を計ると38.5℃と思ったより高くなくて少しホッとしました。診察が始まると先生にいろいろなことを聞かれました。「けいれんの時、手足はつっぱっていたか、ちぢこまっていたか?」「白めを剥いた時、黒目は上を向いていたか、横を向いていたか?」「ひきつけていたのはどのくらいの時間か?」などです。ところが私たちはどの質問にも正確に答えることができませんでした。「たぶん手足はちぢこまっていて、黒目は上を向いていたような…。ひきつけの時間は…たぶん1分くらいだったと思います…」と曖昧に答えることしかできませんでした。先生は、「単なる熱性けいれんなので特に心配ありません。もしまたをひきつけ起こすようなら、あわてずに時間を計りながらよく観察してくださいね。おさまらないということはないし、ひきつけで命を落とすこともありません。長くとも5分でおさまるはずですから。」と言われ帰宅しました。

たった一日で二度も!そして救急車で…

 帰路の車の中では娘は比較的元気を取り戻し、「なんだ、大丈夫じゃん」っと思わせるほどでした。夕飯の買い物をして家に帰り、いつもどおり夕飯(鍋もの)を食べました。娘も食欲がなくなることもなく、普通に食事を済ませました。ところが夕食を食べ終わったあたりから、少し悪寒があるのか震えるようになりました。寒いのかと思い、エアコン暖房とホットカーペットをつけ、娘を寝かし、毛布をかけてやりました。これが間違いの元だったのです。暖めすぎたためにまた熱があがってしまい、再びけいれんを起こしてしまったのです!今度はとてもひどいけいれんで、食べたものは全部吐き戻し、次に泡を噴き、激しくけいれんをし、黒目は完全に上に上がってしまい、本当に壮絶な状況でした。それでも先生に言われたとおり、落ち着いて観察しながら時間を計っていましたが、一向にけいれんがおさまる気配がなく、とうとう5分が経過してしまいました。これは危ない!と思い、急いで119番通報し救急車を呼びました。救急車が到着するまでにさらに7分くらい経過しましたがけいれんはおさまらず、私たちはもうどうしてよいのかわからずパニック状態に陥り、ただただ祈るばかりでした。救急車が到着し車内に運び込まれると激しいけいれんはおさまりましたが、目は閉じ、震えたような状態のまま意識が戻らず依然危険な状態でした。病院の救急入り口に救急車が到着したと同時に娘は覚醒しました。けいれんを起こしてから約20分後のことです。

ごめんね、暖めすぎちゃった

 再び診察を受けましたが、やはり単なる熱性けいれんとの診断でした。ただ、原因は「暖めすぎ」。子どもは温度調節がうまくできないため、発熱したら、冬でも暖房は切り、ランニングとおむつだけにしてあげなければいけないそうです。風邪をひいているのに寒くないのかしら?と心配になりますが、「氷の上に寝かせるくらいの気持ちでいてください」と看護婦さんに言われました。診察後、けいれんがあまりに長時間だったので念のために血液検査をしましたが、とくに異常はありませんでした。そして2時間点滴をして帰宅しました。

熱性けいれんはこれだけでは終わらない

 これで初めての「熱性けいれん」の体験は終わりですが、一度熱性けいれんを経験してしまったら、ここからが大変なのです。熱性けいれんは、熱が急に上がったりするときに起こしやすいそうで、一度なると再び起こす可能性があります。そこで、注意されたのは、5歳くらいまで「解熱剤」は決して与えないでくださいということでした。解熱剤は熱を一時的に下げるものなので、薬の効果が切れると急に熱が上がってしまいます。そんな時またけいれんを起こしてしまうのです。5歳までというのは、その頃になると脳も発達して、熱が上がってもけいれんを起こすことがなくなるようになるからです。ですから、もしまた発熱した時は、解熱剤のかわりに「ひきつけ止め」(ダイアップ)を座薬で使用します。これを37.5℃くらいになったらおしりから入れて、その8時間後にもう一度入れてあげます。そうするとだいたい熱性けいれんを防ぐことができます。ですから、このダイアップは小児科の先生に処方していただき、常備しておかなければなりません。

なんと三度めのけいれんが!

 しかし、この後もまた事件は起こりました。つい先日(4月の半ば)、また娘が発熱しました。そこでいつものように37.5℃を超えた時点でダイアップを使用しました。ところが座薬なので肛門を刺激してしまったようで15分くらいで便がでてしまいました。そこであわてて小児科に電話し受付の看護婦さんに事情を説明すると、「15分経っていれば、おそらく大丈夫ですよ、溶けてると思います」と言われたので安心していました。しかし、2度めのダイアップを使用する前に、けいれんは起こってしまいました。夜間だったので、夜間救急の病院の小児科に電話し事情を話すと「15分じゃ溶けませんよ、30分は必要です。もし30分以内に便が出てしまったら入れ直さなければいけませんでしたね。」と言われてしまいました。
 ダイアップを入れると、子どもはフラフラになったり眠くなったりするようなので、あまり使いすぎると脳に影響が出てしまうのでは?と心配で、便で出てしまったかどうかわからない微妙な時には、入れ直してもよいものなのかどうか、とても迷います。そういう時は、自分で勝手に判断せず、必ず行きつけの小児科の先生に直接電話でお伺いしたほうが良いと思いました。

脳波検査

 また、ひきつけを何度か繰り返してしまったり、うちの娘のように長時間続いてしまった場合は、念のため脳波検査をした方が良いみたいです。こういったことも、どんどん小児科の先生に相談してみましょう。

 休日や夜間の急な発病にも、電話で相談を受けてくれる窓口があります。ここでは「東京都保健医療情報センターひまわり」を紹介しますが、各地域に必ず同じ様な窓口があると思いますので、緊急時に備えて「タウンページ」や「保健所」などで調べておいて下さい。

東京都保健医療情報センターひまわり(相談及び24時間医療機関案内)TEL 03-5272-0303
 休日や夜間の発病またはケガで、救急車を呼ぶほどではないけど心配な場合は、とりあえずここに連絡してみましょう。応急処置や近隣で休日や夜間診療を行っている医療機関を紹介してくれます。


レポートに関するコメント(土川内科小児科 土川研也先生)

 熱性けいれん予防についての要点は、「解熱剤には熱性けいれんを予防する効果はない。ダイアップの使用でけいれん防止の効果が期待できる」ということです。従って、熱さましのお薬よりもダイアップを優先的に使用します。また、熱性けいれんにけいれん止め座薬(ダイアップ)とアンヒバなどの解熱用座薬を使う場合には、解熱剤の基剤の成分がダイアップ(ジアゼパム)の吸収を阻害するために、30分程度はあけるようにお話しております。もちろん飲み薬の解熱剤でしたらダイアップと同時で構いません。なお、熱性けいれんを起こした場合、すべてのケースに予防的治療が必要となるわけではありません。熱性けいれんを3回以上繰り返す場合や熱性けいれん再発に関する要注意因子がある場合などに行われます。個々の症例で違いますので、詳しくはかかりつけの小児科の先生にご相談下さい。


土川研也先生、大変参考になるコメントをありがとうございました。

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